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記憶に残るCWシナリオを人魚亭に集う
冒険者の手記として記録しました。
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★ 賢者の選択(その3)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。リューンへの帰路の途中に立ち寄った宿で、俺達はリューンの騎士−ミューゼル卿の依頼を引き受けることになった。数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリスト−呪術士ディマデュオの捕縛、それが依頼内容だった。ミューゼル卿は秘密裏に行動している心算だった。だが、その動きは呪術士ディマデュオにすでに知られていた。俺達は不意に眠りの雲を仕掛けられて、気が付くと石造りの部屋に閉じ込められていた。俺達は全員怪我一つなく、武器も奪われてはいなかったが、ミューゼル卿はすでに絶命していた。調査を始めた俺達は閉じ込められたこの場所が、アンデットの徘徊する墓地であることを知った。アンデットとの不要な戦闘を避けながら、墓地を調べてはみたが、出口を見つけることは出来なかった。俺達は仕方なく札が貼られた扉を開けてみることにした。部屋には「カナン」と名乗る年老いた魔術師が閉じ込められていた。老人には腕がなかった。この墓地に隠された老人の腕を二本捜してくれば、自らの魔法で俺達全員を無事にこの墓地の外に運んでやる−その魔術師は自らの名にかけて、そう誓うのだった。

部屋からでると魔法使いのルシアが俺に詰め寄ってきた。
「あの魔術師は危険じゃ。この取引、悪魔と契約するようなものじゃ。判っておるのか?」
「判っている。だが、他に方法はない」
俺は廊下の壁を背にしゃがみこむと、石の天井を見上げた。
「俺達は墓場に閉じ込められ、疲れを知らぬアンデットに消耗戦を仕掛けられているようなもんだ。今はまだ皆、大した怪我はしちゃいねぇが、脱出までに時間がかかれば、死人がでてもおかしくねぇと俺は思っている」
俺は拳を握り締めた。
「リューンはもう目と鼻の先だ。やっとここまで戻ってきたんだ。俺は……全員無事でリューンに帰り着きたい」
ルシアは静かに頭を振ると大きな溜息をついた。
「確かにお主の言う通りかもしれぬ……。じゃが、油断するでないぞ」
俺達はもう一度、墓場の調査を始めた。そして、ある小部屋に置かれた石棺の底に、奥へと続く穴が開いているのを見つけたんだ。俺達は警戒しながら、その穴へと足を踏み入れた。穴は別の小部屋に置かれた石棺に続いていた。石棺から出ると、そこは先程と同じような小部屋だった。正面に見える扉の鍵を外して部屋から出ると、さっきと同じような廊下が暗闇の向こうへと続いている。ただ、こちらは先程の場所と雰囲気が違っていた。扉には細かい文様が彫られており、廊下も数人が並んで通れるくらい幅広い。飾りたてられてはいなかったが、どこかしら貴族趣味の名残のようなものが感じられた。
「カーン……」
突然、暗闇の向こうで無機質な音がした。石に硬いものが当たる音−それはひとつではなかった。幾つもの音が不連続に響き、ゆっくりと俺達に近づいてくる。俺達は武器を身構えた。暗闇から現れたのは、6体の骸骨−スケルトンだった。肉はほとんど削げ落ち、わずかばかり骨にこびりつくように残る肉片には黴が生えている。ルシアの周囲を飛び回っていた焔の矢がスケルトンに襲い掛かった。スケルトンが炎に包まれる。
「骨まで焼き尽くすには魔力が足りぬか……」
スケルトンはそれをものともせず、俺達に向かってくる。続いてライナスが聖句を唱えた。2体のスケルトンが音を立てて床に崩れ落ちる−聖句でもこれだけの数をすべて滅することは無理だった。魔法の発動には時間がかかる。スケルトン4体を足止めする必要があった。俺とスレイがスケルトン目掛けて飛びかかろうとした時だった。
「ゾンビよ!!」
背後から吟遊詩人フェアリスの叫び声が聞こえた。振り向くと間の悪いことに、背後にゾンビが現れた。しかも6体もいやがる。長い廊下に逃げ場はねぇ−俺達は挟み撃ちにあってしまったんだ。
「ライナスとルシア、ゾンビの始末を頼む」
「それにスレイ、魔法の発動には時間が掛かる。ゾンビを足止めしてくれ」
「グレン……」
「早くいけ!」
スレイは踵を返すと背後のゾンビ退治に向かった。ライナスとルシアがこれに続く−恐らく奴らなら6体のゾンビを片付けてくれるだろう。だが、暫くは奴らからの援護は当てに出来ねぇ。俺は目の前のスケルトン退治に集中することにした。
ライナスの聖句のせいで、3体目と4体目の間隔が開いている。フェアリスが鎮魂歌を奏でると、スケルトンの動きが鈍くなった。俺は先頭のスケルトンとの間合いを一気につめると骸骨の足目掛けて、勢いよく滑り込んだ。衝撃で先頭のスケルトンがバランスを崩して、倒れ込む。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエの言葉に光の魔方陣が白く輝き、スケルトンは倒れ込んだまま動かなくなった。俺は目端でそれを確認すると、その勢いのまま2体目の懐に飛び込んで、力任せに剣を薙いだ。スケルトンが呆気なく地面に崩れ落ちる。続いて3体目に切りかかる。このスケルトンも簡単にバラバラになった。
(脆すぎる……)
俺は奇妙な違和感に襲われた。だが、それに構っている暇はなかった。最後の4体目のスケルトンに備えようと体制を立て直した時だった。
「グレン、後ろです!」
オリヴィエの叫び声が聞こえた。振り返った俺の目に倒したはずのスケルトンから振り下ろされる閃光が見えたんだ。

俺は反射的に体を捻った。1体目の攻撃は避けることが出来た。だが、もう1体の攻撃を避けることは出来なかった。背中に焼け付くような痛みが走る。俺は切りかかってきたスケルトンに蹴りを入れた。足が触れる刹那、その衝撃を避けるようにスケルトンが崩れ落ちるのが見えた。俺は、一旦間合いを取った。
「酷い……」
吟遊詩人フェアリスの震える声が背後から聞こえた。だが、悠長に手当てをしている時間はなかった。傷は鎧を切り裂いて背中まで達したのだろう。崩れ落ちたスケルトンが元の姿に戻り、俺達に迫ってくる。背中を伝う液体は腰まで達している。だが、不思議と痛みはない。俺は剣を持つ手に力を込めた−まだ、戦える。俺は鎧の止め金具に手を伸ばした。
間合いを詰めたスケルトンが再び俺に襲い掛かってきた。1体目のスケルトンから振り下ろされる剣を俺は正面から受け止めた。体を少し捻ると、鎧の前身頃が体からずり落ちる。俺はそれを思いっきり蹴り上げた。不意の攻撃を受けて、スケルトンは後ろに吹っ飛んだ。続いて、2体目のスケルトンが剣を振り下ろしてきた。俺はその腕を引っつかむとスケルトンの腹目掛けて、剣を差し込んだ。
「流石にこの攻撃を防ぐことはできねぇだろう」
俺は力を込めて剣を振り上げ、スケルトンの上半身を真っ二つにした。続いて、3体目のスケルトンの胸目掛けて、奪い取った剣を投げつけた。スケルトンの胸を串刺しにして、剣は壁に突き刺り、スケルトンを壁に繋ぎ止めた。1体目のスケルトンは鎧に邪魔されて、まだ体を修復できずにいた。俺はそのスケルトンの破片を思いっきり踏み拉いた。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエの言葉に光の魔方陣円陣が白く輝き、3体のスケルトンの破片は完全にその動きを止めたんだ。

「止血はしましたが、本当に大丈夫なのですね?」
6体のゾンビを片付けて俺達に合流したライナスは、俺の傷を一頻り診るとそう言った。
「ああ、傷は大して痛まねぇし、体も問題なく動く」
俺は腕をぶん回してみせた。
「……傷は浅くありません。無理はしないように」
ライナスはそう言って、俺を嗜めた。
「グレン、貴方……」
手当てを手伝っていたオリヴィエが突然口を開いた。
「……いえ、何でもありません。些細なことです。忘れてください」
オリヴィエはそれ以上何も語ろうとはしなかった。
「しかし、鎧がだめになってしまったぜ」
「これがあるぜ」
そう言ってスレイは、さっき墓場で見つけた異様な冷気を放つ鎧を差し出した。
「……仕方ねぇな」
気はすすまなかったが、身につけてみると鎧は不思議と体になじんだ。小休止をとった後、俺達は再び探索を始めた。運よくアンデットと出会うことなく、廊下の突き当たりで札が貼られた扉をみつけることが出来た。恐らく、ここに腕があると見て間違いねぇだろう。俺達は札を破ると、その部屋に足を踏み入れた。
部屋には四つの石棺が置かれていた。その奥に棒のようなものが吊り下げられている。目を凝らしてよく見ると、それは干からびた腕だった。恐らく、これが目的のものだろう。俺はそれに手を伸ばした。皆、武器を身構えて石棺を見つめている。
「ポタン……」
首筋に冷たい水滴が落ちてきた。俺は首筋に手をやると、何気なく天井を見上げた。そこには鎧を身につけた4体の兵士が逆さまにぶら下がっていた。土気色の肌が仄かに黄色く光っている。兵士は生気のない真っ赤な瞳を俺に向けた。
「死の戦士ワイト!!気をつけてください。彼らは触れただけで生者の心を凍てつかせる力を持っています」
ライナスが叫ぶのと同時に死の戦士ワイトが、俺達に襲い掛かってきたんだ。

スレイは素早くワイトの前に飛び出すと槍を身構えた。攻撃に移ろうとしていたワイトの動きが一瞬止まった。ライナスは聖句を唱えると、空間に素早く紋章を描いた。その瞬間、2体のワイトが水を浴びた泥人形のように崩れ落ちた。続いて精霊使いのオリヴィエが描いた魔方陣が白く輝き、1体のワイトを捉えた。ワイトが光の中に砕け散りながら、消えていく。最後の1体目掛けて、ルシアは魔法の矢を放った。魔法の矢はワイトの片腕を吹き飛ばした。だが、その動きを完全に封じることは出来なかった。ワイトは魔槍使いのスレイに突進した。衝撃でスレイは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「拙い!」
俺はワイトの前に飛び出すと、力任せに剣を薙いだ。ワイトはそれを軽々と避けると、俺達と一旦距離をとった。死の戦士と恐れられる怪物だけのことはある。想像以上に動きが速ぇ。しかも、魔法の矢で失った腕が見る間に再生していくのを俺は目の当たりにした。
ワイトは生気のない真っ赤な瞳をライナスに向けた。ライナスとワイトに間に俺が割って入るより速く、ワイトはライナス目掛けて突進した。ライナスはその攻撃を横に飛んで避けた。だが、ワイトの振り下ろした指先が、ライナスの腕を切り裂いた。ライナスが床に倒れこむ。俺は背後からワイトの腰に抱きついた。そして、力任せにワイトを持ち上げると床に叩きつけた。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエが魔法を発動させた。地面に描かれた円陣が白く輝き、ワイトは水を浴びた泥人形のように崩れ落ちた。後に残ったのは黄土色に変色した骨だけだった。



2008.05.01 Thursday 13:39
[グレンの手記] -
★ 賢者の選択(その2)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。リューンへの帰路の途中に立ち寄った宿で、俺達はリューンの騎士−ミューゼル卿の依頼を引き受けることになった。数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリスト−呪術士ディマデュオの捕縛、それが依頼内容だった。ミューゼル卿は秘密裏に行動している心算だった。だが、その動きは呪術士ディマデュオにすでに知られていた。俺達は不意に眠りの雲を仕掛けられて、気が付くと石造りの部屋に閉じ込められていた。俺達は全員怪我一つなく、武器も奪われてはいなかったが、ミューゼル卿はすでに絶命していた。俺達は出口を探し始めた。部屋には石造りの門と頑丈そうな扉以外何もなかった。石造りの門は途中で土砂に埋もれてしまっていて、それ以上奥へと進むことは出来なかった。頑丈そうな扉には鍵はかけられてはいなかった。随分と古い扉で、少し動かしただけでも蝶番が酷い軋みを上げる。俺達が行動を始めたことは、扉の向こうにいる敵には知られてしまっただろう。俺達は周囲を警戒しながら闇へと向かって伸びる暗い廊下へと足を踏み出したんだ。

暗い廊下を進んでいくと、扉があった。扉を開けると窓一つない小部屋の中央に石棺が置かれていた。石棺に蓋はなく、俺達は中を覗き込んだ。
「酷でぇな……」
思わず声が漏れた。石棺の中には人間のものらしき遺体が納められている。だが、その遺体の首は鋭利な刃物で胴体から切り離されていた。
「ディマデュオの仕業か……」
「そうではないと思います」
聖句使いのライナスが異を唱えた。
「多くの者は蘇った死者を再び安らかな眠りに戻す術を知りません。死者が蘇らないようにするための唯一の手段−それが死者の首を切り落とすことなのです」
「蘇った死者って……まさか!」
「ええ、ここは墓場−それも恐らくは蘇った死者が徘徊している……」
俺達は石棺の前で円陣を組んで作戦をたてることにした。こんな時に聖句使いのライナスがいてくれることが有難かった。
「『ディマデュオは死人を手足のように操る』というミューゼル卿の言葉を信じるのであれば、厄介な死鬼がここにいてもおかしくはないと思います。戦闘では死鬼にできるだけ近づかないこと−勢いに任せて懐に飛び込むのは危険極まりない行為であることを覚えておいてください」
ライナスの言葉に俺と魔槍使いのスレイは顔を見合わせて肩を竦めた。
「例えば、人間の屍を食らうグールの爪には麻痺性の毒があります。また、怨霊を宿す死の戦士ワイトは触れただけで生者の心を凍てつかせる力を持っています。それに、ここには死霊がいるかもしれません。死霊には普通の武器は効きません」
ライナスは一頻りレクチャーを終えると、俺の武器を清め始めた。
「私の力では気休め程度かもしれませんが、聖なる武器はアンデットに有効です。スレイ、あなたの槍は魔法障壁の力を持っているので、清めることができません。それに、その魔法障壁は、敵の魔法だけでなく、私達の魔法も跳ね返してしまいます。槍で敵を攻撃したりしないようくれぐれも注意してください」
スレイが大きく頷く。
「敵がアンデットなら不意打ちはあるまい」
魔法使いのルシアはそう言うと、焔の矢の呪文を唱えた。ルシアの周囲を二つの焔塊が飛び回り、周囲がわずかに明るくなる。俺達はアンデットとの戦闘の準備を整えると、廊下をさらに奥に進んだ。すぐにまた同じような扉が見えてくる。
「なにか変な音が聞こえてこない?」
吟遊詩人のフェアリスがそう言った。音はどうやら部屋の中から聞こえてくるようだった。静かに扉を開けると石棺の右のほうに男の姿が見えた。男は裸だった。俺達に背を向け、床の上にしゃがみこんで、しきりに口に何かを運んでいる。ぐちゃぐちゃと気持ち悪いその音はその男が発しているようだった。突然、しゃがみこんでいた男が振り返った。獣のような目をした男は口に加えた肉片をごくりと飲み込んだ。
「グール!!」
ライナスのその言葉に男は奇声を上げて俺達に襲い掛かってきたんだ。

ライナスは落ち着いていた。一歩下がってグールと距離をとると聖句を唱え、空間に素早く紋章を描いた。暗闇でその指先から白い稲妻が迸るような気がした。その瞬間、グールは床に崩れ落ち、動かなくなった。
「流石だな、ライナス……」
いつもなら真っ先に敵に切り込んでいく魔槍使いのスレイがそう言った。一頻りその小部屋を調べてみたが、出口は見つからなかった。再び廊下に出て、俺達はさらに奥へと進んだ。廊下を左に折れ、暫く進んだところで、俺達は札が貼られた扉を見つけたんだ。
「呪術に使用する札のようじゃ。扉を開けるには札を破らなければならぬな」
魔法使いのルシアがそう言った。
「中に何かが封じられている可能性も考えられます。取り敢えず、一頻り墓場を回ってみましょう」
聖句使いライナスの言葉に俺達はまず、他を調べてみることにしたんだ。徘徊する死鬼との戦闘をできるだけ避けながら、俺達は出口を探し歩いた。墓地にはいくつもの扉があったが、中は窓一つない石の小部屋で中央に石棺が置かれているだけだった。そんな中、俺達は鍵のかかった部屋から鎧を見つけたんだ。鎧は異様な冷気を放っていた。
「よせ、スレイ!」
俺の制止も聞かず、魔槍使いのスレイが鎧に手を伸ばした。
「グレン、これが出口への鍵になるかもしれないんだぜ」
そう言ってスレイは、鎧を台座から取り外した。何か怪異がおこるかもしれねぇ−俺は武器を身構えた。だが、何も起こる気配はなかった。
「大丈夫か、スレイ」
「ああ」
そう言って、スレイは手に入れたお宝を嬉しそうに俺達に見せびらかせていたっけ……

出口は見つからなかった。仕方なく俺達は札が貼られた扉を開けてみることにした。扉を開けようとすると、札は音もなく破れ、地面へと舞い落ちた。俺達はその部屋へと足を踏み入れた。広い部屋だった。他の部屋と同様、窓一つない石の部屋−だが、石棺は見当たらなかった。
突然、暗闇の向こうで何かが蠢いた。
「部屋の奥に何かいる!!」
思わず声が漏れた。
「誰じゃ?」
老人……その声は明らかに老人のものだった。目を凝らしてよく見ると、黒いビロードのローブをまとった老人が、頑丈そうな鎖で壁に縛り付けられている。
「貴方はいったい……?」
精霊使いのオリヴィエが老人に問うた。老人は俺達を暫く見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……なるほど、お前達はカナナンの村の者ではないのじゃな。村の呪術士にこの地下墓地に閉じ込められた……そんなところであろう?」
老人は俺達の表情からそれを確信したようだった。
「……わしかね?わしはこの墓地の主じゃ。あの若造にしてやられてな、この有り様じゃよ。その様子では出口を探しておるのだろう」
暗がりの中、老人が薄ら笑いを浮かべたような気がした。
「この墓地の主であるならば、出口を教えてはくれぬか?」
魔法使いのルシアが老人に問うた。
「気の毒じゃがな……この地下墓地に出口はない」
老人はきっぱりそう言うと、言葉を継いだ。
「ある事はあるが、巨大な岩盤とあの忌々しい呪術士の魔法で封じられておるわ。お前達の力では開ける事など到底出来まい」
「では、この地下墓地から抜け出す方法はないの?」
吟遊詩人フェアリスの声は震えていた。老人はゆっくりと俺達を見回すと再び口を開いた。
「そんな事よりも、まずはこのうっとうしい鎖を外してはくれんかね?あまりに長い間つながれているでな、背中が痒くてしょうがないんじゃ……」
老人は身体を壁に張りつけている鎖をあごで指し示した。頑丈そうだが、何度も武器で叩けば壊す事はできるだろう。俺達は鎖目掛けて武器を振り下した。何度かそれを繰り返し、十数回を数える頃、ようやく鎖が千切れ飛んだ。
「ほぅ……久々の自由じゃ!礼を申すぞ」
「それで、この地下墓地から抜け出す方法は?」
魔槍使いのスレイが我慢しきれずに老人に詰め寄った。
「わしは魔術の心得がある。鎖を解いてくれた事じゃ、すぐにでも表に出してやりたい。だが……残念ながらこの通りでな」
老人は両腕を前に出した。黒いローブの袖が捲れ、その下には……腕がなかった。
「あの若造にちぎり取られてしもうたんじゃ。腕が無い事には魔法が使えん。何、心配する事はない。要は腕を取り返してくれればいいんじゃ。そうすれば再び魔法が使えるようになる。あの若造め、わしの腕を事もあろうにこの地下墓地の何処かに隠しおったんじゃ……わしも侮られたものよの」
「……お主、一体何者じゃ?」
魔法使いのルシアが老人に問う。
「年老いた魔術師。お前達には、それで十分じゃろう?」
老人はそう答えると、ローブの下からルシアを見据えた。
「要は腕を二本捜してくればよい。それでわしは魔法が使えるようになり、お前達は表に出られる。それで十分であろう。その上、何を望む?」
「判った。あんたの腕を取り返してくればいいんだな?」
「その通りじゃ」
俺の問いに老人が答える。もの言いたげなルシアを俺は目で制した。
「あんたは、魔術師だ。その名にかけて誓って貰おう。あんたの腕を取り返してくれば、俺達全員を無事にこの墓地の外に運ぶ−それでいいな!」
老人は興味深そうに、俺を見つめていた。だが、やがて不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。
「いい度胸だ、若造。よかろう、わが名『カナン』にかけて誓おう。腕を取り返してくれば、お前達全員を無事にこの墓地の外に運んでやる」
その老人はそう言い放ったのだった。

2007.09.24 Monday 13:31
[グレンの手記] -
★ 賢者の選択(その1)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。中央公路とはいえ、町を離れれば寂しいもんだ。周囲に人里はなく、沈みかけた夕陽が荒れ果てた原野に長い影を落としている。
「リューンまであと少しね……」
吟遊詩人のフェアリスがそう呟いた。リューンにはあと二日程度で着くだろう。雲をつかむような話でその実在すら危ぶまれる代物を探索するという依頼を、俺達は引き受ける羽目になった。そんな依頼にも拘らず、魔法使いのルシア、魔槍使いのスレイ、吟遊詩人のフェアリス、精霊使い(見習い)のオリヴィエ、それに聖句使いのライナスが加わってくれた。正直ありがてぇなと俺は思ったもんだ。あちこち放浪した挙句、魔法使いと対決することにはなったが、どうにか全員無事でここまで戻ってくることが出来た。ふと、熱いものがこみ上げて来る。しかし、いつまでも感慨に耽っているわけにはいかねぇ。俺達はその晩の塒を探し始めた。この数日、野宿続き。今日くらいは宿でゆっくりと休みてぇな−そう考えていた俺達は道沿いにぽつりと建つ一件の宿屋を見つけた。宿から揚げじゃがの旨そうな香りが漂ってくる。俺達はすぐに宿泊を決めた。“賢者の選択亭”−看板にはそう書かれていた。それを横目に見ながら、俺達は運命の扉を開けたんだ……

「ふぅ……美味い!生き返るぜ」
陶器のカップに並々とつがれたエール酒を、俺は一気に飲み干した。地下室の冷気に当てられ、良く冷えたエール酒の喉越しは最高だった。続いて、テーブルに料理が運ばれてくる。旅の道中は乾パンなんかの携帯食がほとんどだったんで、久々に食う汁気の多い料理は美味かった。俺はここぞとばかりに片っ端から胃袋へと詰め込んだ。そんな俺を精霊使いのオリヴィエがじっと見つめている。食べものでもくっついているのだろうか−俺はあわてて口を拭った。
「……それだけ食べてよく太りませんね」
「冒険者は体が資本だからな」
「なに、ものの5年もせぬ間に、腹が出て禿げてくるに決まっておる」
魔法使いのルシアが透かさずそう言った。
「『禿げてくる』って何だよ」
俺は口を突き出して、ルシアを睨み付けた。魔槍使いのスレイが笑いを堪えながら、俺の肩を叩く。そんな俺達を宥めるように、吟遊詩人のフェアリスが竪琴を爪弾きだした。リューンの流行り歌−俺は二杯目のエール酒を一気に飲み干した。

「……外が騒がしいですね」
フェアリスが一曲歌い終わった時のことだった。俺の向かいに座った聖句使いのライナスがそう言って、入り口のほうを見た。突然、勢いよく扉が開き、鎧に身を包んだ男が宿に入ってきた。口髭を貯えた身だしなみのよい中年の男性で、白い胸当てには見覚えのある紋章が刻まれている−それはリューンの騎士だった。
「主…主はいるか!?」
「こ、これは騎士様…このような宿に何かご用ですか?」
騎士の様子に店の主はただ事ならぬ事態を察したようだった。
「この近くに貴族の邸宅はあるか?無ければ治安隊の詰め所でも構わん!」
騎士はそう言って店の主に詰め寄った。
「い、いえ……何分、このような辺境の一軒家。そのようなものはこの近くにはございません」
店主の言葉に、騎士は顎をさすって思案をめぐらせ始めた。眉間に寄せられた皺の深さが事態の深刻さを物語っている。騎士は暫く考え込んでいたが、店に居た俺達にふと目を止めた。
「失礼。その身なりからして、冒険者とお見受けするが如何か?」
「いかにも」
魔法使いのルシアが礼を失することのないよう、立ち上がって騎士に応じた。
「諸君の腕をお貸し頂けないだろうか。事態は急を要するのだ。」
「一体何事?」
「済まぬが、今は説明している時間がない。一刻を争うのだ。謝礼は騎士の名誉に賭けてお約束する」
騎士は真っ直ぐにルシアを見据えた。
「答えを聞かせて頂きたい…如何?」
騎士の問いに、ルシアは振り返って俺を見た。こんな時、判断を下すのはリーダーの役目だった。騎士の只ならぬ様子からして力を貸してやるのが道理というものだろう。だが、依頼の内容が判らねぇ。俺達の手に負えない依頼だったら−そんな想いが頭を過ぎる。
「これで決めないか?」
魔槍使いのスレイが、懐から銀貨を取り出した。俺は黙って頷く。それを合図にスレイは銀貨を弾いた。宙に舞った銀貨はテーブルに着地すると、勢い良く回りだした。
「表なら断る、裏なら引き受ける。それで文句はないな」
テーブルを囲む仲間全員が黙って頷く。騎士も固唾を呑んで、テーブルの上の銀貨を見つめている。銀貨はやがて勢いを失い、大きく頭を振りながら最後に1回転すると、その動きを止めた。……銀貨は裏を向いていた。
こうして、俺達は一度解いた荷物を再び纏めることになった。早々に準備を整えた俺達はミューゼル卿に伴われて、その宿を後にした。表に出ると、看板が風にゆれて不快な音を立てた。看板に刻まれた“賢者の選択亭”の文字が夕陽で赤く染まっている。俺はふと言い知れぬ不安に駆られた。それは期せずして的中することになったんだ。

「……そろそろ事情を聞かせては貰えぬか、ミューゼル卿?」
魔法使いルシアのその求めに応じるべくミューゼル卿は周囲を見回すと、近くの茂みに身を埋めた。俺達もそれに習う。ミューゼル卿は茂みの影から眼前の小さな村−カナナンの様子を監視しつつ、事の成り行きを話し始めた。
「呪術士ディマデュオがあの村にいる……」
「ディマデュオ?」
「数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリストだ。呪術を生業としていてな。死人を手足のように操り、人を呪い殺す事さえいとも簡単にやってのける。我々は奴の行方をずっと追い続けていたんだ」
ミューゼル卿は拳を握り締めた。
「村人と結託しているのか、それとも脅しているのかは判らぬが、今はあの村に匿われている。だが、私が気付いたことが知られてしまえば、ディマデュオは姿を消してしまうだろう」
「追い続けた凶悪犯があの村にいるという訳ですな……それでこれからどうなさる心算じゃ?このまま監視を続けるか、それとも隠れ家に踏み込むか……」
ルシアの言葉に、騎士は顎をさすって思案をめぐらせ始めた。リューンまでは二日。ミューゼル卿が店の主に託した手紙を受け取った騎士団がすぐに行動を起こしたとしても、到着するのは四日後になるだろう。村の出入り口は一つだけではない。この人数だけで村を交替で見張るには長すぎる時間だった。
いつしか、霧が出てきた。まとわりつくような白い靄が周囲に漂う。突然、ルシアが立ち上がった。
「眠りの雲!いかん、皆、息を止め……」
だが、すでに遅かった。仲間たち、そして眠りの雲を察知した魔法使いのルシアさえも地面に倒れ込んだ。俺はどうにか立ち上がることが出来たが、酷い眩暈に襲われて膝をついた。そんな俺達の前に白髪の目つきの鋭い男が立っていた。男は地面に伏すミューゼル卿を蹴り上げると、胸倉を掴んで引き起こした。
「いらっしゃい、確かミューゼル殿でしたかな?」
「ディマデュオ!貴様なぜ……」
ディマデュオは右手を軽く上げて、後ろに立つ男を指し示した。そこに居たのは賢者の選択亭の店主だった。
「あのような辺鄙な場所に立つ宿屋……一番近くの村と関わりがあって然るべきでしょう? まぁ、何にせよ、ここまでです。それでは良い夢を……」
呪術師ディマデュオの皮肉な笑い顔が歪む。俺は最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。だが、その抵抗も空しく暗い意識の中に引きずり込まれていったんだ……

水滴の音で俺は目を覚ました。頬に当たる冷てぇ石の感触……目を凝らすと、暗がりの向こうにミューゼル卿、それに仲間達の姿を確認することが出来た。全員、この暗い石造りの部屋に放りこまれたようだ。正面には頑丈そうな扉が見える。首を捻って背後を振り返ると、扉に向かい合う壁に石造りの門が見えた。扉の向こうに人の気配がしないのを確認すると腕、次に足にゆっくりと力を込めて体に異常がないかを調べてみる−大丈夫だ問題なく動く。俺は次に腰を弄ってみた−不思議なことに剣は奪われていなかった。
「いったい何がどうなって……」
フェアリスの声がした。俺もゆっくりと体を起こす。頭が痛い……二日酔いみたいな気分だ。俺はフェアリスと手分けして、暗がりの石造りの床を這って仲間達を揺り起こし始めた。皆、無事なようだ−そう安堵した時だった。
「ミューゼル卿……!!」
フェアリスの声に、俺は背後を振り返った。
「酷でぇな……」
思わず声が漏れた。ミューゼル卿は死んでいた。しかも、背や腹部十ヶ所もの刺傷がある。短い刃物で滅多刺しにされたようだった。傷の割には床に流れた血の量が少ない。何処か別の場所で殺されて、ここに運び込まれたようだった。だが、仲間達は全員無事で、武器も奪われてはいなかった。聖句使いのライナスが静かに聖句を唱えてミューゼル卿の魂を弔う。冷たい石の床に座って酷い眩暈が治まるのを待つと、俺達は出口を探し始めた。部屋には石造りの門と頑丈そうな扉以外何もなかった。俺達はまず石造りの門の奥へと向かった。だが、しばらく進むと道は土砂に埋もれてしまっていて、それ以上奥へと進むことは出来なかった。次に俺達は頑丈そうな扉を調べることにした。魔槍使いのスレイが扉を調べてはみたが、鍵はかけられてはいなかった。随分と古い扉で、少し動かしただけでも蝶番が酷い軋みを上げる。俺達が行動を始めたことは、扉の向こうにいる敵には知られてしまっただろう。スレイは力を込めて扉を開けた。突然、一匹の蝙蝠が扉の向こうから飛び掛ってきた。
「大丈夫か、スレイ?」
「ああ、大した傷じゃない」
スレイは指先を引っ掻かれたようだが、大したことはないようだった。俺達は周囲を警戒しながら闇へと向かって伸びる暗い廊下へと足を踏み出した。この時、俺達はまだ気付いてはいなかった。周囲に満ちる死の気配に……

***********************************
参考とさせて頂いたシナリオ
シナリオ名: 『 賢者の選択 』 ver.1.15 製作者:齋藤 洋様

2007.07.29 Sunday 00:23
[グレンの手記] -
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