Material:月時館
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記憶に残るCWシナリオを人魚亭に集う
冒険者の手記として記録しました。
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★ 賢者の選択(その1)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。中央公路とはいえ、町を離れれば寂しいもんだ。周囲に人里はなく、沈みかけた夕陽が荒れ果てた原野に長い影を落としている。
「リューンまであと少しね……」
吟遊詩人のフェアリスがそう呟いた。リューンにはあと二日程度で着くだろう。雲をつかむような話でその実在すら危ぶまれる代物を探索するという依頼を、俺達は引き受ける羽目になった。そんな依頼にも拘らず、魔法使いのルシア、魔槍使いのスレイ、吟遊詩人のフェアリス、精霊使い(見習い)のオリヴィエ、それに聖句使いのライナスが加わってくれた。正直ありがてぇなと俺は思ったもんだ。あちこち放浪した挙句、魔法使いと対決することにはなったが、どうにか全員無事でここまで戻ってくることが出来た。ふと、熱いものがこみ上げて来る。しかし、いつまでも感慨に耽っているわけにはいかねぇ。俺達はその晩の塒を探し始めた。この数日、野宿続き。今日くらいは宿でゆっくりと休みてぇな−そう考えていた俺達は道沿いにぽつりと建つ一件の宿屋を見つけた。宿から揚げじゃがの旨そうな香りが漂ってくる。俺達はすぐに宿泊を決めた。“賢者の選択亭”−看板にはそう書かれていた。それを横目に見ながら、俺達は運命の扉を開けたんだ……

「ふぅ……美味い!生き返るぜ」
陶器のカップに並々とつがれたエール酒を、俺は一気に飲み干した。地下室の冷気に当てられ、良く冷えたエール酒の喉越しは最高だった。続いて、テーブルに料理が運ばれてくる。旅の道中は乾パンなんかの携帯食がほとんどだったんで、久々に食う汁気の多い料理は美味かった。俺はここぞとばかりに片っ端から胃袋へと詰め込んだ。そんな俺を精霊使いのオリヴィエがじっと見つめている。食べものでもくっついているのだろうか−俺はあわてて口を拭った。
「……それだけ食べてよく太りませんね」
「冒険者は体が資本だからな」
「なに、ものの5年もせぬ間に、腹が出て禿げてくるに決まっておる」
魔法使いのルシアが透かさずそう言った。
「『禿げてくる』って何だよ」
俺は口を突き出して、ルシアを睨み付けた。魔槍使いのスレイが笑いを堪えながら、俺の肩を叩く。そんな俺達を宥めるように、吟遊詩人のフェアリスが竪琴を爪弾きだした。リューンの流行り歌−俺は二杯目のエール酒を一気に飲み干した。

「……外が騒がしいですね」
フェアリスが一曲歌い終わった時のことだった。俺の向かいに座った聖句使いのライナスがそう言って、入り口のほうを見た。突然、勢いよく扉が開き、鎧に身を包んだ男が宿に入ってきた。口髭を貯えた身だしなみのよい中年の男性で、白い胸当てには見覚えのある紋章が刻まれている−それはリューンの騎士だった。
「主…主はいるか!?」
「こ、これは騎士様…このような宿に何かご用ですか?」
騎士の様子に店の主はただ事ならぬ事態を察したようだった。
「この近くに貴族の邸宅はあるか?無ければ治安隊の詰め所でも構わん!」
騎士はそう言って店の主に詰め寄った。
「い、いえ……何分、このような辺境の一軒家。そのようなものはこの近くにはございません」
店主の言葉に、騎士は顎をさすって思案をめぐらせ始めた。眉間に寄せられた皺の深さが事態の深刻さを物語っている。騎士は暫く考え込んでいたが、店に居た俺達にふと目を止めた。
「失礼。その身なりからして、冒険者とお見受けするが如何か?」
「いかにも」
魔法使いのルシアが礼を失することのないよう、立ち上がって騎士に応じた。
「諸君の腕をお貸し頂けないだろうか。事態は急を要するのだ。」
「一体何事?」
「済まぬが、今は説明している時間がない。一刻を争うのだ。謝礼は騎士の名誉に賭けてお約束する」
騎士は真っ直ぐにルシアを見据えた。
「答えを聞かせて頂きたい…如何?」
騎士の問いに、ルシアは振り返って俺を見た。こんな時、判断を下すのはリーダーの役目だった。騎士の只ならぬ様子からして力を貸してやるのが道理というものだろう。だが、依頼の内容が判らねぇ。俺達の手に負えない依頼だったら−そんな想いが頭を過ぎる。
「これで決めないか?」
魔槍使いのスレイが、懐から銀貨を取り出した。俺は黙って頷く。それを合図にスレイは銀貨を弾いた。宙に舞った銀貨はテーブルに着地すると、勢い良く回りだした。
「表なら断る、裏なら引き受ける。それで文句はないな」
テーブルを囲む仲間全員が黙って頷く。騎士も固唾を呑んで、テーブルの上の銀貨を見つめている。銀貨はやがて勢いを失い、大きく頭を振りながら最後に1回転すると、その動きを止めた。……銀貨は裏を向いていた。
こうして、俺達は一度解いた荷物を再び纏めることになった。早々に準備を整えた俺達はミューゼル卿に伴われて、その宿を後にした。表に出ると、看板が風にゆれて不快な音を立てた。看板に刻まれた“賢者の選択亭”の文字が夕陽で赤く染まっている。俺はふと言い知れぬ不安に駆られた。それは期せずして的中することになったんだ。

「……そろそろ事情を聞かせては貰えぬか、ミューゼル卿?」
魔法使いルシアのその求めに応じるべくミューゼル卿は周囲を見回すと、近くの茂みに身を埋めた。俺達もそれに習う。ミューゼル卿は茂みの影から眼前の小さな村−カナナンの様子を監視しつつ、事の成り行きを話し始めた。
「呪術士ディマデュオがあの村にいる……」
「ディマデュオ?」
「数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリストだ。呪術を生業としていてな。死人を手足のように操り、人を呪い殺す事さえいとも簡単にやってのける。我々は奴の行方をずっと追い続けていたんだ」
ミューゼル卿は拳を握り締めた。
「村人と結託しているのか、それとも脅しているのかは判らぬが、今はあの村に匿われている。だが、私が気付いたことが知られてしまえば、ディマデュオは姿を消してしまうだろう」
「追い続けた凶悪犯があの村にいるという訳ですな……それでこれからどうなさる心算じゃ?このまま監視を続けるか、それとも隠れ家に踏み込むか……」
ルシアの言葉に、騎士は顎をさすって思案をめぐらせ始めた。リューンまでは二日。ミューゼル卿が店の主に託した手紙を受け取った騎士団がすぐに行動を起こしたとしても、到着するのは四日後になるだろう。村の出入り口は一つだけではない。この人数だけで村を交替で見張るには長すぎる時間だった。
いつしか、霧が出てきた。まとわりつくような白い靄が周囲に漂う。突然、ルシアが立ち上がった。
「眠りの雲!いかん、皆、息を止め……」
だが、すでに遅かった。仲間たち、そして眠りの雲を察知した魔法使いのルシアさえも地面に倒れ込んだ。俺はどうにか立ち上がることが出来たが、酷い眩暈に襲われて膝をついた。そんな俺達の前に白髪の目つきの鋭い男が立っていた。男は地面に伏すミューゼル卿を蹴り上げると、胸倉を掴んで引き起こした。
「いらっしゃい、確かミューゼル殿でしたかな?」
「ディマデュオ!貴様なぜ……」
ディマデュオは右手を軽く上げて、後ろに立つ男を指し示した。そこに居たのは賢者の選択亭の店主だった。
「あのような辺鄙な場所に立つ宿屋……一番近くの村と関わりがあって然るべきでしょう? まぁ、何にせよ、ここまでです。それでは良い夢を……」
呪術師ディマデュオの皮肉な笑い顔が歪む。俺は最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。だが、その抵抗も空しく暗い意識の中に引きずり込まれていったんだ……

水滴の音で俺は目を覚ました。頬に当たる冷てぇ石の感触……目を凝らすと、暗がりの向こうにミューゼル卿、それに仲間達の姿を確認することが出来た。全員、この暗い石造りの部屋に放りこまれたようだ。正面には頑丈そうな扉が見える。首を捻って背後を振り返ると、扉に向かい合う壁に石造りの門が見えた。扉の向こうに人の気配がしないのを確認すると腕、次に足にゆっくりと力を込めて体に異常がないかを調べてみる−大丈夫だ問題なく動く。俺は次に腰を弄ってみた−不思議なことに剣は奪われていなかった。
「いったい何がどうなって……」
フェアリスの声がした。俺もゆっくりと体を起こす。頭が痛い……二日酔いみたいな気分だ。俺はフェアリスと手分けして、暗がりの石造りの床を這って仲間達を揺り起こし始めた。皆、無事なようだ−そう安堵した時だった。
「ミューゼル卿……!!」
フェアリスの声に、俺は背後を振り返った。
「酷でぇな……」
思わず声が漏れた。ミューゼル卿は死んでいた。しかも、背や腹部十ヶ所もの刺傷がある。短い刃物で滅多刺しにされたようだった。傷の割には床に流れた血の量が少ない。何処か別の場所で殺されて、ここに運び込まれたようだった。だが、仲間達は全員無事で、武器も奪われてはいなかった。聖句使いのライナスが静かに聖句を唱えてミューゼル卿の魂を弔う。冷たい石の床に座って酷い眩暈が治まるのを待つと、俺達は出口を探し始めた。部屋には石造りの門と頑丈そうな扉以外何もなかった。俺達はまず石造りの門の奥へと向かった。だが、しばらく進むと道は土砂に埋もれてしまっていて、それ以上奥へと進むことは出来なかった。次に俺達は頑丈そうな扉を調べることにした。魔槍使いのスレイが扉を調べてはみたが、鍵はかけられてはいなかった。随分と古い扉で、少し動かしただけでも蝶番が酷い軋みを上げる。俺達が行動を始めたことは、扉の向こうにいる敵には知られてしまっただろう。スレイは力を込めて扉を開けた。突然、一匹の蝙蝠が扉の向こうから飛び掛ってきた。
「大丈夫か、スレイ?」
「ああ、大した傷じゃない」
スレイは指先を引っ掻かれたようだが、大したことはないようだった。俺達は周囲を警戒しながら闇へと向かって伸びる暗い廊下へと足を踏み出した。この時、俺達はまだ気付いてはいなかった。周囲に満ちる死の気配に……

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参考とさせて頂いたシナリオ
シナリオ名: 『 賢者の選択 』 ver.1.15 製作者:齋藤 洋様

2007.07.29 Sunday 00:23
[グレンの手記] -