Material:月時館
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記憶に残るCWシナリオを人魚亭に集う
冒険者の手記として記録しました。
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★ 賢者の選択(その2)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。リューンへの帰路の途中に立ち寄った宿で、俺達はリューンの騎士−ミューゼル卿の依頼を引き受けることになった。数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリスト−呪術士ディマデュオの捕縛、それが依頼内容だった。ミューゼル卿は秘密裏に行動している心算だった。だが、その動きは呪術士ディマデュオにすでに知られていた。俺達は不意に眠りの雲を仕掛けられて、気が付くと石造りの部屋に閉じ込められていた。俺達は全員怪我一つなく、武器も奪われてはいなかったが、ミューゼル卿はすでに絶命していた。俺達は出口を探し始めた。部屋には石造りの門と頑丈そうな扉以外何もなかった。石造りの門は途中で土砂に埋もれてしまっていて、それ以上奥へと進むことは出来なかった。頑丈そうな扉には鍵はかけられてはいなかった。随分と古い扉で、少し動かしただけでも蝶番が酷い軋みを上げる。俺達が行動を始めたことは、扉の向こうにいる敵には知られてしまっただろう。俺達は周囲を警戒しながら闇へと向かって伸びる暗い廊下へと足を踏み出したんだ。

暗い廊下を進んでいくと、扉があった。扉を開けると窓一つない小部屋の中央に石棺が置かれていた。石棺に蓋はなく、俺達は中を覗き込んだ。
「酷でぇな……」
思わず声が漏れた。石棺の中には人間のものらしき遺体が納められている。だが、その遺体の首は鋭利な刃物で胴体から切り離されていた。
「ディマデュオの仕業か……」
「そうではないと思います」
聖句使いのライナスが異を唱えた。
「多くの者は蘇った死者を再び安らかな眠りに戻す術を知りません。死者が蘇らないようにするための唯一の手段−それが死者の首を切り落とすことなのです」
「蘇った死者って……まさか!」
「ええ、ここは墓場−それも恐らくは蘇った死者が徘徊している……」
俺達は石棺の前で円陣を組んで作戦をたてることにした。こんな時に聖句使いのライナスがいてくれることが有難かった。
「『ディマデュオは死人を手足のように操る』というミューゼル卿の言葉を信じるのであれば、厄介な死鬼がここにいてもおかしくはないと思います。戦闘では死鬼にできるだけ近づかないこと−勢いに任せて懐に飛び込むのは危険極まりない行為であることを覚えておいてください」
ライナスの言葉に俺と魔槍使いのスレイは顔を見合わせて肩を竦めた。
「例えば、人間の屍を食らうグールの爪には麻痺性の毒があります。また、怨霊を宿す死の戦士ワイトは触れただけで生者の心を凍てつかせる力を持っています。それに、ここには死霊がいるかもしれません。死霊には普通の武器は効きません」
ライナスは一頻りレクチャーを終えると、俺の武器を清め始めた。
「私の力では気休め程度かもしれませんが、聖なる武器はアンデットに有効です。スレイ、あなたの槍は魔法障壁の力を持っているので、清めることができません。それに、その魔法障壁は、敵の魔法だけでなく、私達の魔法も跳ね返してしまいます。槍で敵を攻撃したりしないようくれぐれも注意してください」
スレイが大きく頷く。
「敵がアンデットなら不意打ちはあるまい」
魔法使いのルシアはそう言うと、焔の矢の呪文を唱えた。ルシアの周囲を二つの焔塊が飛び回り、周囲がわずかに明るくなる。俺達はアンデットとの戦闘の準備を整えると、廊下をさらに奥に進んだ。すぐにまた同じような扉が見えてくる。
「なにか変な音が聞こえてこない?」
吟遊詩人のフェアリスがそう言った。音はどうやら部屋の中から聞こえてくるようだった。静かに扉を開けると石棺の右のほうに男の姿が見えた。男は裸だった。俺達に背を向け、床の上にしゃがみこんで、しきりに口に何かを運んでいる。ぐちゃぐちゃと気持ち悪いその音はその男が発しているようだった。突然、しゃがみこんでいた男が振り返った。獣のような目をした男は口に加えた肉片をごくりと飲み込んだ。
「グール!!」
ライナスのその言葉に男は奇声を上げて俺達に襲い掛かってきたんだ。

ライナスは落ち着いていた。一歩下がってグールと距離をとると聖句を唱え、空間に素早く紋章を描いた。暗闇でその指先から白い稲妻が迸るような気がした。その瞬間、グールは床に崩れ落ち、動かなくなった。
「流石だな、ライナス……」
いつもなら真っ先に敵に切り込んでいく魔槍使いのスレイがそう言った。一頻りその小部屋を調べてみたが、出口は見つからなかった。再び廊下に出て、俺達はさらに奥へと進んだ。廊下を左に折れ、暫く進んだところで、俺達は札が貼られた扉を見つけたんだ。
「呪術に使用する札のようじゃ。扉を開けるには札を破らなければならぬな」
魔法使いのルシアがそう言った。
「中に何かが封じられている可能性も考えられます。取り敢えず、一頻り墓場を回ってみましょう」
聖句使いライナスの言葉に俺達はまず、他を調べてみることにしたんだ。徘徊する死鬼との戦闘をできるだけ避けながら、俺達は出口を探し歩いた。墓地にはいくつもの扉があったが、中は窓一つない石の小部屋で中央に石棺が置かれているだけだった。そんな中、俺達は鍵のかかった部屋から鎧を見つけたんだ。鎧は異様な冷気を放っていた。
「よせ、スレイ!」
俺の制止も聞かず、魔槍使いのスレイが鎧に手を伸ばした。
「グレン、これが出口への鍵になるかもしれないんだぜ」
そう言ってスレイは、鎧を台座から取り外した。何か怪異がおこるかもしれねぇ−俺は武器を身構えた。だが、何も起こる気配はなかった。
「大丈夫か、スレイ」
「ああ」
そう言って、スレイは手に入れたお宝を嬉しそうに俺達に見せびらかせていたっけ……

出口は見つからなかった。仕方なく俺達は札が貼られた扉を開けてみることにした。扉を開けようとすると、札は音もなく破れ、地面へと舞い落ちた。俺達はその部屋へと足を踏み入れた。広い部屋だった。他の部屋と同様、窓一つない石の部屋−だが、石棺は見当たらなかった。
突然、暗闇の向こうで何かが蠢いた。
「部屋の奥に何かいる!!」
思わず声が漏れた。
「誰じゃ?」
老人……その声は明らかに老人のものだった。目を凝らしてよく見ると、黒いビロードのローブをまとった老人が、頑丈そうな鎖で壁に縛り付けられている。
「貴方はいったい……?」
精霊使いのオリヴィエが老人に問うた。老人は俺達を暫く見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……なるほど、お前達はカナナンの村の者ではないのじゃな。村の呪術士にこの地下墓地に閉じ込められた……そんなところであろう?」
老人は俺達の表情からそれを確信したようだった。
「……わしかね?わしはこの墓地の主じゃ。あの若造にしてやられてな、この有り様じゃよ。その様子では出口を探しておるのだろう」
暗がりの中、老人が薄ら笑いを浮かべたような気がした。
「この墓地の主であるならば、出口を教えてはくれぬか?」
魔法使いのルシアが老人に問うた。
「気の毒じゃがな……この地下墓地に出口はない」
老人はきっぱりそう言うと、言葉を継いだ。
「ある事はあるが、巨大な岩盤とあの忌々しい呪術士の魔法で封じられておるわ。お前達の力では開ける事など到底出来まい」
「では、この地下墓地から抜け出す方法はないの?」
吟遊詩人フェアリスの声は震えていた。老人はゆっくりと俺達を見回すと再び口を開いた。
「そんな事よりも、まずはこのうっとうしい鎖を外してはくれんかね?あまりに長い間つながれているでな、背中が痒くてしょうがないんじゃ……」
老人は身体を壁に張りつけている鎖をあごで指し示した。頑丈そうだが、何度も武器で叩けば壊す事はできるだろう。俺達は鎖目掛けて武器を振り下した。何度かそれを繰り返し、十数回を数える頃、ようやく鎖が千切れ飛んだ。
「ほぅ……久々の自由じゃ!礼を申すぞ」
「それで、この地下墓地から抜け出す方法は?」
魔槍使いのスレイが我慢しきれずに老人に詰め寄った。
「わしは魔術の心得がある。鎖を解いてくれた事じゃ、すぐにでも表に出してやりたい。だが……残念ながらこの通りでな」
老人は両腕を前に出した。黒いローブの袖が捲れ、その下には……腕がなかった。
「あの若造にちぎり取られてしもうたんじゃ。腕が無い事には魔法が使えん。何、心配する事はない。要は腕を取り返してくれればいいんじゃ。そうすれば再び魔法が使えるようになる。あの若造め、わしの腕を事もあろうにこの地下墓地の何処かに隠しおったんじゃ……わしも侮られたものよの」
「……お主、一体何者じゃ?」
魔法使いのルシアが老人に問う。
「年老いた魔術師。お前達には、それで十分じゃろう?」
老人はそう答えると、ローブの下からルシアを見据えた。
「要は腕を二本捜してくればよい。それでわしは魔法が使えるようになり、お前達は表に出られる。それで十分であろう。その上、何を望む?」
「判った。あんたの腕を取り返してくればいいんだな?」
「その通りじゃ」
俺の問いに老人が答える。もの言いたげなルシアを俺は目で制した。
「あんたは、魔術師だ。その名にかけて誓って貰おう。あんたの腕を取り返してくれば、俺達全員を無事にこの墓地の外に運ぶ−それでいいな!」
老人は興味深そうに、俺を見つめていた。だが、やがて不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。
「いい度胸だ、若造。よかろう、わが名『カナン』にかけて誓おう。腕を取り返してくれば、お前達全員を無事にこの墓地の外に運んでやる」
その老人はそう言い放ったのだった。

2007.09.24 Monday 13:31
[グレンの手記] -