Material:月時館
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記憶に残るCWシナリオを人魚亭に集う
冒険者の手記として記録しました。
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★ 賢者の選択(その3)
ヴィスマールとリューンを結ぶ中央公路。リューンへの帰路の途中に立ち寄った宿で、俺達はリューンの騎士−ミューゼル卿の依頼を引き受けることになった。数々の要人暗殺や、破壊工作に関わったとされるテロリスト−呪術士ディマデュオの捕縛、それが依頼内容だった。ミューゼル卿は秘密裏に行動している心算だった。だが、その動きは呪術士ディマデュオにすでに知られていた。俺達は不意に眠りの雲を仕掛けられて、気が付くと石造りの部屋に閉じ込められていた。俺達は全員怪我一つなく、武器も奪われてはいなかったが、ミューゼル卿はすでに絶命していた。調査を始めた俺達は閉じ込められたこの場所が、アンデットの徘徊する墓地であることを知った。アンデットとの不要な戦闘を避けながら、墓地を調べてはみたが、出口を見つけることは出来なかった。俺達は仕方なく札が貼られた扉を開けてみることにした。部屋には「カナン」と名乗る年老いた魔術師が閉じ込められていた。老人には腕がなかった。この墓地に隠された老人の腕を二本捜してくれば、自らの魔法で俺達全員を無事にこの墓地の外に運んでやる−その魔術師は自らの名にかけて、そう誓うのだった。

部屋からでると魔法使いのルシアが俺に詰め寄ってきた。
「あの魔術師は危険じゃ。この取引、悪魔と契約するようなものじゃ。判っておるのか?」
「判っている。だが、他に方法はない」
俺は廊下の壁を背にしゃがみこむと、石の天井を見上げた。
「俺達は墓場に閉じ込められ、疲れを知らぬアンデットに消耗戦を仕掛けられているようなもんだ。今はまだ皆、大した怪我はしちゃいねぇが、脱出までに時間がかかれば、死人がでてもおかしくねぇと俺は思っている」
俺は拳を握り締めた。
「リューンはもう目と鼻の先だ。やっとここまで戻ってきたんだ。俺は……全員無事でリューンに帰り着きたい」
ルシアは静かに頭を振ると大きな溜息をついた。
「確かにお主の言う通りかもしれぬ……。じゃが、油断するでないぞ」
俺達はもう一度、墓場の調査を始めた。そして、ある小部屋に置かれた石棺の底に、奥へと続く穴が開いているのを見つけたんだ。俺達は警戒しながら、その穴へと足を踏み入れた。穴は別の小部屋に置かれた石棺に続いていた。石棺から出ると、そこは先程と同じような小部屋だった。正面に見える扉の鍵を外して部屋から出ると、さっきと同じような廊下が暗闇の向こうへと続いている。ただ、こちらは先程の場所と雰囲気が違っていた。扉には細かい文様が彫られており、廊下も数人が並んで通れるくらい幅広い。飾りたてられてはいなかったが、どこかしら貴族趣味の名残のようなものが感じられた。
「カーン……」
突然、暗闇の向こうで無機質な音がした。石に硬いものが当たる音−それはひとつではなかった。幾つもの音が不連続に響き、ゆっくりと俺達に近づいてくる。俺達は武器を身構えた。暗闇から現れたのは、6体の骸骨−スケルトンだった。肉はほとんど削げ落ち、わずかばかり骨にこびりつくように残る肉片には黴が生えている。ルシアの周囲を飛び回っていた焔の矢がスケルトンに襲い掛かった。スケルトンが炎に包まれる。
「骨まで焼き尽くすには魔力が足りぬか……」
スケルトンはそれをものともせず、俺達に向かってくる。続いてライナスが聖句を唱えた。2体のスケルトンが音を立てて床に崩れ落ちる−聖句でもこれだけの数をすべて滅することは無理だった。魔法の発動には時間がかかる。スケルトン4体を足止めする必要があった。俺とスレイがスケルトン目掛けて飛びかかろうとした時だった。
「ゾンビよ!!」
背後から吟遊詩人フェアリスの叫び声が聞こえた。振り向くと間の悪いことに、背後にゾンビが現れた。しかも6体もいやがる。長い廊下に逃げ場はねぇ−俺達は挟み撃ちにあってしまったんだ。
「ライナスとルシア、ゾンビの始末を頼む」
「それにスレイ、魔法の発動には時間が掛かる。ゾンビを足止めしてくれ」
「グレン……」
「早くいけ!」
スレイは踵を返すと背後のゾンビ退治に向かった。ライナスとルシアがこれに続く−恐らく奴らなら6体のゾンビを片付けてくれるだろう。だが、暫くは奴らからの援護は当てに出来ねぇ。俺は目の前のスケルトン退治に集中することにした。
ライナスの聖句のせいで、3体目と4体目の間隔が開いている。フェアリスが鎮魂歌を奏でると、スケルトンの動きが鈍くなった。俺は先頭のスケルトンとの間合いを一気につめると骸骨の足目掛けて、勢いよく滑り込んだ。衝撃で先頭のスケルトンがバランスを崩して、倒れ込む。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエの言葉に光の魔方陣が白く輝き、スケルトンは倒れ込んだまま動かなくなった。俺は目端でそれを確認すると、その勢いのまま2体目の懐に飛び込んで、力任せに剣を薙いだ。スケルトンが呆気なく地面に崩れ落ちる。続いて3体目に切りかかる。このスケルトンも簡単にバラバラになった。
(脆すぎる……)
俺は奇妙な違和感に襲われた。だが、それに構っている暇はなかった。最後の4体目のスケルトンに備えようと体制を立て直した時だった。
「グレン、後ろです!」
オリヴィエの叫び声が聞こえた。振り返った俺の目に倒したはずのスケルトンから振り下ろされる閃光が見えたんだ。

俺は反射的に体を捻った。1体目の攻撃は避けることが出来た。だが、もう1体の攻撃を避けることは出来なかった。背中に焼け付くような痛みが走る。俺は切りかかってきたスケルトンに蹴りを入れた。足が触れる刹那、その衝撃を避けるようにスケルトンが崩れ落ちるのが見えた。俺は、一旦間合いを取った。
「酷い……」
吟遊詩人フェアリスの震える声が背後から聞こえた。だが、悠長に手当てをしている時間はなかった。傷は鎧を切り裂いて背中まで達したのだろう。崩れ落ちたスケルトンが元の姿に戻り、俺達に迫ってくる。背中を伝う液体は腰まで達している。だが、不思議と痛みはない。俺は剣を持つ手に力を込めた−まだ、戦える。俺は鎧の止め金具に手を伸ばした。
間合いを詰めたスケルトンが再び俺に襲い掛かってきた。1体目のスケルトンから振り下ろされる剣を俺は正面から受け止めた。体を少し捻ると、鎧の前身頃が体からずり落ちる。俺はそれを思いっきり蹴り上げた。不意の攻撃を受けて、スケルトンは後ろに吹っ飛んだ。続いて、2体目のスケルトンが剣を振り下ろしてきた。俺はその腕を引っつかむとスケルトンの腹目掛けて、剣を差し込んだ。
「流石にこの攻撃を防ぐことはできねぇだろう」
俺は力を込めて剣を振り上げ、スケルトンの上半身を真っ二つにした。続いて、3体目のスケルトンの胸目掛けて、奪い取った剣を投げつけた。スケルトンの胸を串刺しにして、剣は壁に突き刺り、スケルトンを壁に繋ぎ止めた。1体目のスケルトンは鎧に邪魔されて、まだ体を修復できずにいた。俺はそのスケルトンの破片を思いっきり踏み拉いた。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエの言葉に光の魔方陣円陣が白く輝き、3体のスケルトンの破片は完全にその動きを止めたんだ。

「止血はしましたが、本当に大丈夫なのですね?」
6体のゾンビを片付けて俺達に合流したライナスは、俺の傷を一頻り診るとそう言った。
「ああ、傷は大して痛まねぇし、体も問題なく動く」
俺は腕をぶん回してみせた。
「……傷は浅くありません。無理はしないように」
ライナスはそう言って、俺を嗜めた。
「グレン、貴方……」
手当てを手伝っていたオリヴィエが突然口を開いた。
「……いえ、何でもありません。些細なことです。忘れてください」
オリヴィエはそれ以上何も語ろうとはしなかった。
「しかし、鎧がだめになってしまったぜ」
「これがあるぜ」
そう言ってスレイは、さっき墓場で見つけた異様な冷気を放つ鎧を差し出した。
「……仕方ねぇな」
気はすすまなかったが、身につけてみると鎧は不思議と体になじんだ。小休止をとった後、俺達は再び探索を始めた。運よくアンデットと出会うことなく、廊下の突き当たりで札が貼られた扉をみつけることが出来た。恐らく、ここに腕があると見て間違いねぇだろう。俺達は札を破ると、その部屋に足を踏み入れた。
部屋には四つの石棺が置かれていた。その奥に棒のようなものが吊り下げられている。目を凝らしてよく見ると、それは干からびた腕だった。恐らく、これが目的のものだろう。俺はそれに手を伸ばした。皆、武器を身構えて石棺を見つめている。
「ポタン……」
首筋に冷たい水滴が落ちてきた。俺は首筋に手をやると、何気なく天井を見上げた。そこには鎧を身につけた4体の兵士が逆さまにぶら下がっていた。土気色の肌が仄かに黄色く光っている。兵士は生気のない真っ赤な瞳を俺に向けた。
「死の戦士ワイト!!気をつけてください。彼らは触れただけで生者の心を凍てつかせる力を持っています」
ライナスが叫ぶのと同時に死の戦士ワイトが、俺達に襲い掛かってきたんだ。

スレイは素早くワイトの前に飛び出すと槍を身構えた。攻撃に移ろうとしていたワイトの動きが一瞬止まった。ライナスは聖句を唱えると、空間に素早く紋章を描いた。その瞬間、2体のワイトが水を浴びた泥人形のように崩れ落ちた。続いて精霊使いのオリヴィエが描いた魔方陣が白く輝き、1体のワイトを捉えた。ワイトが光の中に砕け散りながら、消えていく。最後の1体目掛けて、ルシアは魔法の矢を放った。魔法の矢はワイトの片腕を吹き飛ばした。だが、その動きを完全に封じることは出来なかった。ワイトは魔槍使いのスレイに突進した。衝撃でスレイは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「拙い!」
俺はワイトの前に飛び出すと、力任せに剣を薙いだ。ワイトはそれを軽々と避けると、俺達と一旦距離をとった。死の戦士と恐れられる怪物だけのことはある。想像以上に動きが速ぇ。しかも、魔法の矢で失った腕が見る間に再生していくのを俺は目の当たりにした。
ワイトは生気のない真っ赤な瞳をライナスに向けた。ライナスとワイトに間に俺が割って入るより速く、ワイトはライナス目掛けて突進した。ライナスはその攻撃を横に飛んで避けた。だが、ワイトの振り下ろした指先が、ライナスの腕を切り裂いた。ライナスが床に倒れこむ。俺は背後からワイトの腰に抱きついた。そして、力任せにワイトを持ち上げると床に叩きつけた。
「アウラ!」
精霊使いオリヴィエが魔法を発動させた。地面に描かれた円陣が白く輝き、ワイトは水を浴びた泥人形のように崩れ落ちた。後に残ったのは黄土色に変色した骨だけだった。



2008.05.01 Thursday 13:39
[グレンの手記] -